大判例

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東京地方裁判所 平成9年(ワ)26395号 判決

原告

ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシャープ

右代表者

サンドラ・ジェーン・エドワーズ

右訴訟代理人弁護士

中島和雄

右補佐人弁理士

川口義雄

伏見直哉

被告

ピジョン株式会社

右代表者代表取締役

仲田洋一

被告

太陽エフ・デイ株式会社

右代表者代表取締役

米田祐康

右両名訴訟代理人弁護士

吉澤敬夫

内山弘道

伊達弘彦

右補佐人弁理士

新井力

岡崎信太郎

新井全

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告ピジョン株式会社(以下「被告ピジョン」という。)は、別紙「物件目録」記載の妊娠検査用具(以下「被告製品」という。)を、販売し、宣伝広告してはならない。

二  被告太陽エフ・デイ株式会社(以下「被告太陽エフ・デイ」という。)は、被告製品を製造し、販売してはならない。

三  被告らは、各本支店、営業所、工場及び倉庫内に保有する被告製品及びその半製品をいずれも廃棄せよ。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、妊娠の判定等に有用な分析試験装置についての特許権の侵害を理由として、被告製品の製造・販売の差止め等を求めている事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、食品、化粧品、家庭用品等の分野における事業を営むオランダ法人であり、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。

特許番号 第二一三二九〇三号

発明の名称 検定法

出願年月日 昭和六三年四月二六日

出願公告年月日 平成七年五月一七日

登録年月日 平成九年一〇月二四日

2  本件特許権に係る明細書(平成八年一〇月二五日付手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載は、次のとおりである(以下、この発明を「本件発明」という。)。

「不透湿性固体材料からなる中空ケーシング中に乾燥多孔質キャリヤを収容しており、前記多孔質キャリヤに液体試料が適用され得るように多孔質キャリヤはケーシングの外部と直接的または間接的に連通しており、湿潤状態において多孔質キャリヤ内部を自由に移動し得る、検体に対して特異結合性の標識付き試薬と、キャリヤ材料上の検出区域に永久的に固定化されており、従って湿潤状態でも移動しない、同検体に対して特異結合性の無標識試薬とを含んでおり、適用された液体試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するように標識付き試薬と検出区域との位置関係が相互に空間的に分離して決定されており、さらに標識付き試薬が検出区域において結合された程度を観察できる手段を含む分析試験装置であって、標識が粒状の直接標識であって、液体試料が適用される前ケーシング内に乾燥状態で保存されていることを特徴とする前記分析試験装置」

3  本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件①」のように表記する。)。

① 不透湿性固体材料からなる中空ケーシング中に乾燥多孔質キャリヤを収容している

② 前記多孔質キャリヤに液体試料が適用され得るように多孔質キャリヤはケーシングの外部と直接的または間接的に連通している

③ 湿潤状態において多孔質キャリヤ内部を自由に移動し得る、検体に対して特異結合性の標識付き試薬を含んでいる

④ キャリヤ材料上の検出区域に永久的に固定化されており、従って湿潤状態でも移動しない、同検体に対して特異結合性の無標識試薬を含んでいる

⑤ 適用された液体試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するように標識付き試薬と検出区域との位置関係が相互に空間的に分離して決定されている

⑥ 標識付き試薬が検出区域において結合された程度を観察できる手段を含む

⑦ 標識が粒状の直接標識であって、液体試料が適用される前ケーシング内に乾燥状態で保存されている

⑧ 分析試験装置

4  被告太陽エフ・デイは、被告製品を製造し、被告ピジョンに販売しており、被告ピジョンは、被告製品(商品名「プレサインA」)を被告太陽エフ・デイから仕入れて販売し、その販売のための宣伝広告をしている。

5  被告製品の構成は、別紙「物件目録」一(説明)記載のとおりである(以下、被告製品の各構成を別紙「物件目録」一記載の符号に従い「構成1」のように表記する。)。

6  本件発明及び被告製品は、いずれも家庭での使用に適し、速効的で便利であり、使用者の手間をできるだけ少なくして診断試験することができるという作用効果を有する。

7  被告製品は、構成要件④、⑥、⑧を充足する。

二  争点

被告製品が本件発明の技術的範囲に属し、被告製品の製造・販売が本件特許権を侵害する行為に該当するか。

1  被告製品が構成要件①を充足するか。

2  被告製品が構成要件②を充足するか。

3  被告製品が構成要件③を充足するか。

4  被告製品が構成要件⑤を充足するか。

5  被告製品が構成要件⑦を充足するか。

三  当事者の主張

1  争点1(構成要件①の充足性)について

(原告の主張)

(一) 被告製品は、「長尺の長方形でなる乳白色のポリエチレンテレフタレート(PET)製台紙2を有し」(構成1)、「尿緩衝材3、試薬シート4、カバー9、吸収材8の上には、表面に目隠し4色印刷層14を施したポリエチレンテレフタレート製の目隠しカバー12が貼りつけられている」(構成10)が、「目隠しカバー12は、その下の判定シート5の…」(構成10)ともされているから、目隠しカバー12は、前記各部材に加えて判定シート5の上をも覆っていることになる。そして、台紙2及び目隠しカバー12の各形成材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)は、「不透湿性固体材料」であり、尿流量調節カバー13によって挟持されており、両者で挟まれた空間には、判定シート5等の部材が収容されているのであるから、目隠しカバー12及び台紙2は「中空ケーシング」に該当する。

(二) 被告らは、本件発明における「中空ケーシング」とは、その内部と外部とを明確に画するもので、右の内部を画する囲いは、構成要件②の構成に照らし、液体試料導入用の開口部(連通部)以外の全部を覆い、外部と通じさせない構造でなければならないとし、被告製品の目隠しカバー12と台紙2は、試験片の上面と下面を覆ってこれをサンドイッチ状に挟んでいるだけであるから、「ケーシング」に該当しないと主張する。しかし、構成要件②から導かれるべき「中空ケーシング」の構造としては、少なくとも多孔質キャリヤの連通を可能ならしめる開口部が設けられているというものにすぎず、その他の部分が外部と完全に遮断する構造でなければならないと解すべき理由はない。そして、被告製品の目隠しカバー12と台紙2は、その内容物である試験片の殆どの部分(判定シートの表面積の九五パーセント以上)を覆っており、その限りで外部と画しているから、「ケーシング」に該当することは疑いない。

また、被告らは、本件発明の「ケーシング」は、内部に湿気が通らないようにする機能を有するところ、被告製品の目隠しカバー12と台紙2は、その機能を有しないから、「ケーシング」ではないと主張する。しかし、本件明細書には、ケーシングがそれ自体で乾燥状態を保持できるものでなければならないとする記載はない。ケーシングを「不透湿性固体材料からなる」としたことにより、それなりの防湿効果があり得るが、その主たる目的は、家庭内で一般消費者が液体試料を適用するに際し、誤ってその適用が多孔質キャリヤの連通部分以外の部分にまで及んでしまったような場合に、そのことによって多孔質キャリヤが影響を受けないようにするところにあり、構成要件②、⑦の構成に照らしても、本件発明が乾燥状態の保持をケーシングのみに期待するものでないことは明らかである。被告らの右主張は、失当である。

また、被告らは、本件明細書において、被告製品の目隠しカバー12と台紙2に相当する構成が「裏打ち」と呼ばれ、「ケーシング」と異なるものとして取り扱われていることからしても、目隠しカバー12と台紙2は「ケーシング」に当たらないと主張するが、被告製品においても、台紙2の内側には判定シート裏打ち材18が設けられ、目隠しカバー12の内側には透明カバー9が設けられてシート部材を裏打ちしているのであるから、目隠しカバー12や台紙2が「ケーシング」に該当しないとみるのは誤りである。

さらに、被告らは、本件発明における「中空ケーシング」とは、「完成装置」のケーシング内部になお中空部分が存在することを意味するとし、被告製品には「中空」と呼べる空間が存在しないと主張するが、「中空ケーシング」とは、要するに、内部に多孔質キャリヤを収容し得るだけの空間的余裕のあるケーシングというほどの意味であって、多孔質キャリヤを収容した後になお空間が残らなければならないというものではない。本件発明の目的からみても、内部に多孔質キャリヤを収容した上になお中空部分が存在するようなケーシングに限ると解すべき根拠や必然性は認められず、被告らの右主張は理由がない。

(三) 試薬シート4は、ガラス繊維製不織布で形成され(構成3)、多数のガラス繊維が多方向に絡み合って立体状に連続したスポンジ状の多孔質を形成しており、判定シート5は、多孔性混合セルロースエステル(ニトロセルロースとセルロースアセテートの混合物)製であり(構成4)、いずれも目隠しカバー12及び台紙2の間に乾燥状態で収容されているから、「乾燥多孔質キャリヤ」である。

たしかに、本件発明においては「多孔質キャリヤ」中の少なくとも検出区域に対応する部分が無標識試薬(たんぱく質)を固定化する能力のある材料(固相材料)でなければならないところ、被告製品の試薬シート4がガラス繊維製で固相材料ではないことは、被告主張のとおりである。しかし、「多孔質キャリヤ」中の少なくとも検出区域以外の部分については固相材料であると否とを問わないこと、「多孔質キャリヤ」は一枚の連続部材に限定されないこと、固相材料ではない場合でもこれを化学的に処理して固相材料とすることができることなどからすれば、「多孔質キャリヤ」は、その素材自体が固相材料に限定されているものではない。また、本件明細書中の多孔質キャリヤの気孔径についての記載は、多孔質キャリヤが固相材料である場合の好適な気孔径の例示にすぎない。被告製品における試薬シート4は、前記の通り多孔質であることが明らかであるから、本件発明の「多孔質キャリヤ」に該当するというべきである。

(四) したがって、被告製品は構成要件①を充足する。

(被告らの主張)

(一) 「中空」とは「内部が空虚なこと」、「がらんどう」を意味し、「ケーシング」とは「包装、外被、覆い」、「機械内部を密閉するための囲い」を意味するから、本件発明における「中空ケーシング」とは、「内部ががらんどう」になった「覆い」若しくは「密閉するための囲い」を意味するものであって、内部に「がらんどう」な空間を保持するような構成、すなわち、その内部と外部とを明確に画するものでなければならない。そして、右の内部を画する囲いは、構成要件②の「多孔質キャリヤはケーシングの外部と直接的または間接的に連通している」という構成に照らし、液体試料導入用の開口部(連通部)以外の全部を覆い、外部と通じさせない構造でなければならない。また、本件発明における「ケーシング」は、「不透湿性固体材料からなる」もので、「中に乾燥多孔質キャリヤを収容」し、粒状の直接標識が「液体試料が適用される前ケーシング内で乾燥状態で保存されている」ものであるから、該「ケーシング」によって試験片を包み込むことによって、内部に湿気が通らないようにする機能を有することも明らかである(液体試料導入用の開口部を塞ぐ手段を施して完成された分析試験装置全体としては、少なくとも独立した防湿機能を有するものでなければならない。)。

被告製品の目隠しカバー12及び台紙2は、試薬シート4、判定シート5、吸収材8などからなる試験片の上面と下面を覆ってこれをサンドイッチ状に挟んでいるだけで、試験片の側面が全部開放されているから、内部と外部を明確に画するものではなく、また、内部に湿気が通さないようにする機能を有するものでもない(被告製品は、湿気が試験片の側面から自由に侵入し得る構造であり、その現実の防湿は、アルミニウムラミネート袋に乾燥剤と共に封入することによっている。)。目隠しカバー12及び台紙2は、試験片が極めて柔軟でありそれだけでは実用に耐えないので、これらに剛性を与え、使用者が手で持つことに支障がないようにするものにすぎず、「中空ケーシング」に該当しない。本件特許明細書において、「ケーシング」と称しているのは、試験片を内部に包み込むケース状のものであるところ、被告製品の目隠しカバー12と台紙2に相当する構成については「裏打ち」と呼ばれ、明らかに「ケーシング」とは異なるものとして取り扱われていることからしても、目隠しカバー12及び台紙2が「ケーシング」に当たらないことは明らかである。

さらに、「ケーシング」とは、内部に空間があり、その内部に何かを収容するものであることは明らかであるから、「ケーシング」という語に加えて更に「中空」と定義する以上、本件発明における「中空ケーシング」とは、「完成装置」のケーシング内部になお中空部分が存在することを意味するというべきである。しかるに、被告製品には、どこにも「中空」と呼べる空間が存在しない。

したがって、被告製品は、「不透湿性固体材料からなる中空ケーシング」を備えていない。

(二) 本件発明における「多孔質キャリヤ」とは、それ自体に孔径が一ないし一二ミクロン程度の気孔を有し、たんぱく質を固定化する能力のある「固相材料」そのものであって、本件明細書の発明の詳細な説明において多孔質としている材料のうち「多孔質固相材料」と称する材料のみを意味し、「多孔質受容部材」に相当する材料が「多孔質キャリヤ」に含まれないことは、本件明細書の記載から明らかである。

被告製品の試薬シート4は、ガラス繊維製であり、右のような気孔を有するものではなく(被告製品の試薬シートは、繊維と繊維の間に数百ミクロン単位の隙間を有するにすぎない。)、たんぱく質を固定化する能力もないから、「多孔質キャリヤ」に該当しない。

したがって、被告製品は「多孔質キャリヤ」を備えていない。

(三) よって、被告製品は構成要件①を充足しない。

2  争点2(構成要件②の充足性)について

(原告の主張)

被告製品における尿緩衝材3は、「台紙2と左端部を揃え」(構成2)ているが、目隠しカバー12は、台紙2の左端部に対応する位置より手前側で途切れているため、尿緩衝材3の相当部分が、目隠しカバー12から外部に露出して尿が適用され得るように構成されている。したがって、被告製品は構成要件②を充足する。

被告は、構成要件②について、多孔質キャリヤがケーシングに設けられた液体試料を導入する僅かな開口部を通じてのみ外部と連続し又は開放されていることを意味すると主張するが、構成要件②は、少なくとも多孔質キャリヤの連通を可能ならしめる開口部が設けられているというものにすぎず、その他の部分が外部と完全に遮断する構造でなければならないと解すべき理由はないことは、前述したとおりである。

(被告らの主張)

「ケーシングの外部と直接的または間接的に連通している」という要件は、多孔質キャリヤがケーシングに設けられた液体試料を導入する僅かな開口部(液体試料導入部分)を通じてのみ外部と連続し又は開放されていることを意味する。これに対し、被告製品の判定シート5は、その全部が外部に開放されていて、被告製品は、多孔質キャリヤが外部と液体試料導入部分によってのみ連続し又は開放されているという構成を有していない。したがって、被告製品は構成要件②を充足しない。

3  争点3(構成要件③の充足性)について

(原告の主張)

被告製品の試薬シート4は、ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン(hCG)と結合する乾燥金コロイド標識付き抗体(B)が含有された(構成3)ものであるが、「ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン」とは、尿中の「検体」であり、また、「乾燥金コロイド標識付き抗体(B)」は、ヒト繊毛性性腺刺激ホルモンに対して「特異結合性の標識付き試薬」にほかならない。そして、被告製品の乾燥金コロイド標識付き抗体(B)は、湿潤状態において、いずれも多孔質部材である試薬シート4及びこれに接して設けられている判定シート5の内部を自由に移動し得るものである。したがって、被告製品は構成要件③を充足する。

被告らは、被告製品において、「標識付き試薬」が「多孔質キャリヤ」に設けられていないから、構成要件③を充足しないと主張するが、前記のとおり、被告製品の「試薬シート4」を形成する「ガラス製不織布」も「多孔質キャリヤ」であるから、被告らの右主張は失当である。

(被告らの主張)

構成要件③の「標識付き試薬」が「多孔質キャリヤ内部を自由に移動し得る」という構成は、たんぱく質を固定化する能力を有する多孔質キャリヤに標識付き試薬をそのまま含ませると本来固定化してしまい、目的とする測定ができないことから、わざわざ規定された構成要件であり、「標識付き試薬」が「多孔質キャリヤ」に設けられることを前提とするものである。被告製品においては、「標識付き試薬」に相当する「金コロイド標識付き抗体」は、「ガラス繊維」に担持されており、「多孔質キャリヤ」に設けられていない。したがって、被告製品は構成要件③を充足しない。

4  争点4(構成要件⑤の充足性)について

(原告の主張)

被告製品は、尿緩衝材3に適用された尿が試薬シート4に担持されている標識付き抗体(B)を吸収した後に判定サイン部6に浸透するように、試薬シート4と判定シート5の判定サイン部6が相互に間隔を保って、つまり「空間的に分離して」設けられている。構成要件⑤の「空間的に」とは「場所的に」の意味であるから、標識付き抗体(B)を含む試薬シート4と判定サイン部6を含む判定シート5が、同一平面上に存在していてもよいことは当然であり、被告製品において、判定シート5が重ね合わせ部16の領域を除いて試薬シート4と同一平面上に存在している点(構成4)は、本件発明の通常の実施態様にすぎない。したがって、被告製品は構成要件⑤を充足する。

被告は、構成要件⑤の「空間的に分離」とは同一平面上にある場合を含まず、三次元的に分離している場合を指すと解し、被告製品は、標識付き試薬と検出区域との位置関係が同一平面にあるから、構成要件⑤を充足しないと主張するが、本件明細書の記載からすれば、標識付き試薬と検出区域は原則的に同一平面上にあることが前提となっているとみるべきであり、被告の右主張は失当である。

(被告らの主張)

構成要件⑤の「空間的に分離」とは、本件特許の出願経過からみて、同一平面上にある場合を含まず、三次元的に分離している場合を指すというべきである。すなわち、薄層クロマトグラフの原理を用いて二つの試薬を出会わせて反応させるという検定法にあっては、二つの試薬が場所的に分離して配置されているのは当然であるから、本件特許出願過程で補正によって特に「空間的に分離」という要件を追加しているのは、単純に平面的に分離していることを意味するのではなく、三次元的に分離していることを指すと考えざるを得ない。被告製品においては、標識付き試薬と検出区域との位置関係が、離れてはいるものの、同一平面にあるにすぎない。したがって、被告製品は構成要件⑤を充足しない。

5  争点5(構成要件⑦の充足性)について

(原告の主張)

被告製品の標識は、「乾燥金コロイド」(構成3)であるから、「粒状の直接標識」であり、検査装置は「アルミニウムラミネート袋20の中に乾燥剤21と共に封入されている」(構成13)から、その使用前においては「乾燥状態で保存されている」ことになる。

被告は、被告製品の目隠しカバー12と台紙2は「ケーシング」でなく、標識を乾燥状態で保存する機能もないとして、構成要件⑦を充足しないと主張する。しかし、被告製品の目隠しカバー12と台紙2が本件発明の「ケーシング」に該当することは、前記のとおりであるから、粒状の直接標識は、「ケーシング」中に保存されている。また、構成要件⑦の「乾燥状態で保存」は、必ずしもケーシングのみによって乾燥状態で保存することを意味するものではない。そして、被告製品の目隠しカバー12と台紙2がそれのみでは標識を乾燥状態で保持する機能を有しないとしても、被告製品は、「アルミニウムラミネート袋20の中に乾燥剤21と共に封入されている」(構成13)から、「液体試料が適用される前ケーシング内に乾燥状態で保存されている」という構成要件を充足している。

したがって、被告製品は構成要件⑦を充足する。

(被告らの主張)

構成要件⑦の「ケーシング内に乾燥状態で保存」とは、ケーシングに「乾燥状態で保存」する機能があることを意味するものであるところ、被告製品にはケーシングがなく、原告がケーシングであるという目隠しカバー12と台紙2にも乾燥状態で保存する機能はない。したがって、被告製品は構成要件⑦を充足しない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1及び2(構成要件①、②の充足性)について

1  構成要件①、②には、「中空ケーシング」ないし「ケーシング」という用語が使用されているところ、一般に、「中空」とは「内部の空虚なこと」、「がらんどう」、「から」を意味するものであり(広辞苑第五版)、「ケーシング」(CASING)とは、通常「包装、外被、覆い」を意味し、他に「戸枠、額縁」などの意味もあるが、機械用語では「機械内部を密閉するための囲い」を意味するものである(小学館ランダムハウス英和辞典)。

2  甲第一号証及び乙第一号証ないし第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件明細書の「発明の詳細な説明」には、本件発明の目的や従来技術等についての説明として、(1)「本発明は家庭、診療所、診察室等での使用に適し、早急に分析結果を得ることができ、しかも使用者の側の熟練も手間もほとんど要さない分析装置に係る。」(本件特許権の特許公報〈甲第一号証。以下「本件公報」という。〉四欄一七行ないし一九行)、(2)「本発明の目的は、未熟練者でも容易に使用でき、また好適には装置の一部分のみ試料(例えば妊娠試験や排卵試験の場合では尿)と接触させれば良く、その後使用者が何もしなくても分析結果を観察できる試験装置を提供することである。」(本件公報四欄二七行ないし三一行)、(3)「免疫学的検定法のような特異結合検定法において試薬含浸試験片を使用することがこれまでに提案されている。この方法では、試料を試験片の一部に塗布し、通常は水のような溶離液を用いて試料を試験片の材料に浸透させる。そうするうちに試料が、試験片の検出区域に侵入し、あるいはここを通過し、そこで試料の中に存在すると思われる検体に対する特異結合試薬が固定される。従って試料中に存在する検体が検出区域の中で結合される。検体が検出区域の中で結合される程度は標識付き試薬を用いて判定することができるが、この標識付き試薬もまた試験片の中に含ませておくか、あるいは後に塗布することができる。上記の原理を用いた先行技術例がタイロイド・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド GB 1589234、ブーツ・セルテック・ダイアグノスティックス・リミテッド EP 0225054、シンテックスUSAインコーポレイテッド EP 0183442、ベーリンベルク AG、EP 0186799に記載されている。」(本件公報四欄三四行ないし五欄二行)、(4)「本発明は上に挙げた刊行物に記載されているような周知技術を改良して、特に家庭での使用に適し、速効的で便利であり、しかも使用者の手間をできるだけ少なくした診断試験装置を提供することを目的とする。」(本件公報五欄三行ないし六行)という各記載がある。

また、本件発明の実施態様についての説明として、(1)「本発明の典型的実施態様である分析試験装置は、乾燥多孔質キャリヤを内蔵して不透湿性固体材料で形成されている中空ケーシングを含んで成る分析試験装置であって、前記多孔質キャリヤに液状試験試料を付与できるように前記多孔質キャリヤがケーシングの外部と直接的または間接的に連通しており、」(本件公報五欄七行ないし一二行)、(2)「本発明のさらに別の実施態様では、多孔質固相材料を多孔質受容部材に連結してこの受容部材に液状試料を塗布し、そこから試料が多孔質固相材料の中に透過できるようにする。好適には、多孔質固相材料を不透過性ケーシングまたはハウジングに内蔵し、この多孔質固相材料と連結されている多孔質受容部材がハウジングの外に延びて、液状試料をハウジング内に導き入れ、多孔質固相材料に透過させる手段として作用できるようにする。多孔質固相材料の第二区域(固定化された無標識特異結合試薬を保持する)がハウジングの外部から観察できるようにして、検定結果の観察を可能にする手段、例えば適宜に配置した開口部をハウジングに設けなければならない。」(本件公報七欄一〇行ないし二一行)という各記載がある。

また、本件発明の実施例についての説明として、(1)実施例1につき、「動作時、本体30の下端部33を液状試料(尿等)の中に浸漬して、液状試料を試験片10の下端部11で吸収させ、毛細管現象により試験片上部17まで上昇させてシンク18に吸収させる。その間に液状試料は区域12を経由して区域14へと進んでいく。上述のような特異結合反応が生じて、使用者は窓32を通して試験結果を観察することができる。」(本件公報一五欄二行ないし八行)、(2)実施例2につき、「動作時、液状試料を装置下端部に付与し、所定量の試料で容器202を充満する。」(本件公報一五欄三〇行及び三一行)、(3)実施例3につき、①「多孔質部材506がハウジング500の中に延び、多孔質キャリヤ材料片510と接触している。多孔質部材506とキャリヤ材料片510とを重なり合わせることによって、これら二つの材料が確実に接触し、部材506に付与された液状試料が部材506に浸透してキャリヤ片510の中に入るようにしている。」(本件公報一六欄二一行ないし二六行)、②「固定化された無標識試薬を含む第二区域については、装置を検定に使用した際に開口部508を通して検定結果を観察できるように、開口部508を通して露出された領域に位置することになる。」(本件公報一六欄四三行ないし四七行)、③「装置を製造する場合、例えばハウジング500をプラスチック材料で二つの部分(例えば上半分515と下半分516)に成形し、多孔質部材と試験片を一方の部分に入れた後二つの部分の間に挿んで固着する(例えば超音波溶接によって)ことによって容易に組立てることが可能である。」(本件公報一七欄一二行ないし一七行)、④「ハウジング500と突出多孔質部材506とを締り嵌めすることにより、突出部材に試料を付与しても試料が直接装置内に入らなくなり、部材506を通るようになる。従って部材506は試料がハウジング内部で試験片に向かう唯一の経路となり、試料を試験片まで制御しながら送ることができる。そのため装置は全体として試料採取機能と分析機能を併合して備えるものであると言える。」(本件公報一七欄二二行ないし二九行)、⑤「使用者は露出されている多孔質部材に試料としての尿を付与するだけで(中略)開口部508を通して試験結果を観察することができる。」(本件公報一七欄三四行ないし三七行)、(4)実施例4につき、①「装置は(中略)開口部601の直下に多孔質試料受容部材を備える。」(本件公報一八欄三六行ないし三八行)、②「動作時、例えば注射器等を用いて水性試料を開口部601から注入し、多孔質受容部材605に含浸させることができる。その後水性試料は試験片を透過して、適当な時間経過後に開口部603、604を通して試験結果が観察できるようになる。」(本件公報一八欄五〇行ないし一九欄四行)という各記載がある。

さらに、本件明細書には、本件発明の実施例(1ないし4)を示すものとして、いずれも多孔質キャリヤの一端部側にのみ液体試料が適用されるように、多孔質キャリヤがケーシングの外部と直接的または間接的に連通している構成の試験装置の図面(本件公報添付の第三図ないし第九図、第一一図及び第一二図)が掲げられている。

(二)(1) 本件発明については、平成七年八月二日、昭和六三年三月二二日に出願された先願発明(特開昭六四―六三八六五号)と同一であることを理由とする特許異議申立てがされた。

(2) 原告は、右特許異議手続において提出した答弁書(乙第二号証)において、次のように主張した。

① 「本願発明は、証拠との対比の便宜上、これを分説すれば下記A)乃至C)特徴を有する。

A) 乾燥状態の粒状直接標識付き特異結合試薬を多孔質キャリヤをベースとした分析装置、例えばストリップ形式の分析装置に使用したこと。

ここにおいて、多孔質キャリヤに適用された液体試料は、通常、毛細管力により多孔質キャリヤ中を移動し、水不溶性の粒状直接標識付き試薬をその乾燥状態から再分散させ、キャリヤの検出区域まで移動させる。

この特徴により、極めて簡易な操作にもかかわらず所要の測定結果が迅速に得られる。

B) 標識付き試薬と検出区域とは、液体試料が標識付き試薬を再分散させて必要とされる特異結合が生じるのに十分な反応時間を経過した後に検出区域に浸透するように、相互に空間的に分離していること。

この特徴により、本願発明の標識は水不溶性の粒状直接標識であるにもかかわらず、少量の液体により再分散して移動中に検体と免疫反応するための十分な時間が確保されて、確実、明確な測定結果が得られる。

C) 多孔質キャリヤの所定位置に容易に液体試料を適用し得るように外部と連通し且つ測定結果を容易に観察できるように検出区域等に相応する位置に開口部等の観察手段が設けられた機能的ケーシングを有すること。

この特徴により、液体試料を所定位置に適用し、後は放置するだけで所要の測定結果が容易に観察され得る。」(二頁八ないし二七行)

② 「(先願発明は)本願発明の前記B)特徴を全然開示していない。

前記のとおり、水不溶性の粒状直接標識を使用する本願発明の場合、少量の液体によるその再分散と移動中の所要の免疫反応とは、この構成を欠くときは必ずしも十分には達成されない。十分な反応時間が確保されないならば、確実、明確な測定結果は得られないのであるから、この構成乃至特徴は、本願発明において極めて重要な技術要素である。

この特徴について、本願明細書本文は、『区域内の空間的分離距離、および多孔質キャリヤ材料の流速特性を適宜に選択することによって、必要とされる特異結合が生じる反応時間を適当に調整できると共に、第一区域の標識付き試薬を液状試料中に溶解または分散させてキャリヤを通って移動させることができる。』(本願特許公報第一一欄第二四乃至二八行)と記載している。この特徴は、標識が水不溶性の粒状直接試薬の場合、確実、明確な測定結果を得るために必須不可欠となる。」(三頁八ないし二〇行)

③ 「(先願発明は)本願発明の前記C)特徴を全然開示していない。

本願発明のケーシングは、単に内容物を保護するためのものではなく、前記機能をも有する。

専ら家庭で使用される妊娠診断装置等の場合、初期着色試薬がケーシングによりかくされており、使用者の注意が観察手段を介して検出区域に集中するということ、および使用者は液体試料をケーシングにより画定されたアッセイ・ストリップの適正な端部に単に適用すれば足りるということは、未熟練者の使用において特に有用である。家庭用診断装置分野で最近提供されている装置の殆どすべてが、本願のこの特徴を備えているほどであり、この特徴による効果は顕著である。」(四頁一〇ないし一八行)

(3) 特許庁は、平成九年九月一六日、本件発明では、「不透湿性固体材料からなる中空ケーシング中に乾燥多孔質キャリヤを収容しており」、「前記多孔質キャリヤに液体試料が適用され得るように多孔質キャリヤはケーシングの外部と直接的または間接的に連通しており」、「標識が液体試料が適用される前ケーシング内に乾燥状態で保存されている」のに対し、右先願発明の明細書には、中空ケーシングについての記載がないことを理由に、右の異議申立ては理由がない旨の決定をした。

3 本件明細書の「特許請求の範囲」に右1に述べた「中空」及び「ケーシング」の通常の用語としての意味、並びに右2(一)認定の明細書の記載及び図面を併せみれば、本件発明は、毛細管作用と特異結合(抗原抗体反応)を利用した、妊娠や排卵期の判定などに用いる試験装置に係るものであり、その原理は、毛細管作用によって、まず、検体を含むと思われる液体試料を、試験片(多孔質キャリヤ)中の、検体に対して特異結合性を有する標識付き試薬を含む区域に浸透させて標識付き試薬と結合させ、次いで、試料と標識付き試薬とを、試験片中の検出区域に移動させ、そこで試料と標識付き試薬との結合の程度を判定するというものであるが、さらに、家庭での使用に適した試験装置を提供すべく、使用者側の手間や熟練をほとんど要することなく、試験装置の一部分のみを試料と接触させるだけで誤りなく早急に分析結果を得ることができるようにしたものということができる。そして、そのような効果を奏するための手段として、内外を区画でき、かつ、中に多孔質キャリヤを収容し得るケーシング(中空ケーシング)を設け、その中に多孔質キャリヤを収容し、多孔質キャリヤがこれに液体試料が適用され得るようにケーシングの外部と直接的又は間接的に連通しているという構成を採用し、これにより装置に付与した液状試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するようにするとともに、家庭で使用するに際し、液体試料の多孔質キャリヤへの適用のため内部と連通しているケーシング開口部以外の部分に、誤って液体試料が接触した場合でも、分析試験の精度に支障を来たさないようにしたものであるというべきである。

そうすると、本件発明においては、液体試料は右連通部を介して多孔質キャリヤに適用された後、多孔質キャリヤ上をその一端から標識付き試薬の存在する区域、検出区域の順序で移動することが必要である。すなわち、多孔質キャリヤの連通部は、多孔質キャリヤのうち標識付き試薬の存在する区域からみて検出区域とは反対側にある端部にある必要があり、他方、ケーシングは、右連通部を介する以外は多孔質キャリヤに液体試料が適用されることのないように多孔質キャリヤを覆うもの(ただし、ケーシングが不透明の場合には、検出区域に相応する位置に観察手段として設けられた開口部を除く。)であることを要するというべきである。このように解さないと、液体試料の適用場所いかんによっては、適正な毛細管作用に影響を及ぼして、液体試料が多孔質キャリヤ上を標識付き試薬の存在する区域、検出区域の順序で移動しないなどの事態を招来し、分析試験の精度に支障を来たし、使用者側の手間や熟練をほとんど要しない、家庭での使用に適した試験装置を提供するという本件発明の目的を達し得ないことになる。

右によれば、構成要件①、②の「中空ケーシング」ないし「ケーシング」とは、多孔質キャリヤについて、標識付き試薬の存在する区域からみて検出区域とは反対側にある端部にのみ液体試料が適用されるように、右端部以外の部分(ただし、ケーシングが不透明の場合における、試料と標識付き試薬の結合の観察手段としての開口部を除く。)を覆うものを意味し、また、構成要件②は、多孔質キャリヤがケーシング(中空ケーシング)によって区画される外部と、前記端部においてのみ直接的又は間接的に連通し、液体試料が右連通部を介してのみ多孔質キャリヤに適用されることを意味すると解すべきである。

このように解することは、前記2(二)認定の出願経過、殊に特許異議手続における原告の主張内容にも合致する。

4  以上を前提に、被告製品が構成要件①、②を充足するかどうかについて検討する。

原告は、目隠しカバー12及び台紙2が構成要件①、②の「中空ケーシング」ないし「ケーシング」に、試薬シート4及び判定シート5が構成要件①、②の「多孔質キャリヤ」にそれぞれ該当し、尿緩衝材3の一部分が目隠しカバー12から外部に露出して尿が適用され得るように構成されているから、構成要件①、②を充足すると主張する。

しかし、目隠しカバー12及び台紙2によって空間が形成され、内外を区画できるとしても、被告製品は、別紙「物件目録」の記載から明らかなとおり、試薬シート4及び判定シート5については、その一端側において、そこで重ね合わされた尿緩衝材3を介して間接的に目隠しカバー12及び台紙2によって形成される空間の外部に連通しているのみならず、試薬シート4の露出部4a及び4b並びに判定シート5の両側面においても直接的に、また、判定シート5の尿緩衝材3とは反対の他端側においても、そこで重ね合わされた吸収材8の両側面を介して間接的に、それぞれ目隠しカバー12及び台紙2によって形成される空間の外部に連通している(右各連通部は、いずれも試料と標識付き試薬との結合を観察する手段としての開口部に該当するものではない。被告製品において右開口部に対応する機能を有するのは、判定シート5の判定サイン部6及び目隠しカバー12の透明部10である。)。したがって、被告製品においては、仮に原告の主張するように試薬シート4及び判定シート5が「多孔質キャリヤ」に該当するとしても、それは、標識付き試薬の存在する区域である試薬シート4からみて検出区域である判定サイン部6とは反対側にある端部(すなわち、本来的に液状試料がそこを介して多孔質キャリヤに適用されるべく外部と連通している尿緩衝材3に接触する部分)以外の部分においても、外部と直接的又は間接的に連通しているものと認められる。

たしかに、被告製品は、本件発明と同様、家庭での使用に適し、速効的で便利であり、使用者の手間をできるだけ少なくして診断試験することができるという作用効果を有するものではあるが、このような被告製品の台紙2、試薬シート4、判定シート5及び目隠しカバー12の各構成では、誤って液体試料が尿緩衝材3以外の部分に接触した場合、液体試料が標識付き試薬の存在する区域である試薬シート4、検出区域である判定サイン部6という順序で移動しないといった事態、すなわち分析試験の精度に支障を来たし得る事態の招来を阻止することはできない(そのような場合に備えて、尿路調節カバー13や、判定シート5の両側縁に撥水剤を印刷加工した撥水化部6a、6bが設けられていると思料される。ただし、試薬シート4の露出部4a及び4bや吸収材8の両側面に撥水加工が施されていない以上、必ずしも分析試験の精度が十分に確保できるものとはいえない。)。結局、被告製品は、本件発明の技術思想、すなわち、内外を区画でき、かつ、中に多孔質キャリヤを収容し得るケーシング(中空ケーシング)を設け、その中に多孔質キャリヤを収容し、多孔質キャリヤがこれに液体試料が適用され得るようにケーシングの外部と直接的又は間接的に連通しているという構成を採用することによって、装置に付与した液状試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するようにするとともに、家庭で使用するに際し、誤って液体試料が、多孔質キャリヤへの適用のため内部と連通しているケーシング開口部以外の部分に接触した場合でも、分析試験の精度に支障を来たさないようにするという技術思想を有するものではないというべきである。

右によれば、被告製品は、構成要件①、②の「中空ケーシング」ないし「ケーシング」を備えておらず、また、構成要件②の、多孔質キャリヤがケーシングによって区画される外部と、その標識付き試薬の存在する区域からみて検出区域とは反対側にある端部においてのみ直接的又は間接的に連通するという構成も備えていないから、構成要件①、②を充足すると認めることはできない。

二  以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件①、②を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。

よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)

別紙物件目録〈省略〉

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